ある掃除のおばさんの話

 

今日は、掃除のおばさんの話をする。

長男のことで苦しんでいた頃、俺を救ってくれた恩人だ。

 

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俺の住んでいるアパートは、ある村の中にある。

といっても、いわゆる“ど田舎”じゃない。小さな町が近いからアクセスは悪くない。

 

その掃除のおばさんは、この村の出身で、小さい頃からずっとここで暮らしていると言っていた。

旦那さんがどこの出身かは知らないけど、少なくともこのアパートが建っている場所は、彼女の村だ。

 

田舎は土地が広い。

村の誰かが土地を売って、そこにアパートが建ったんだろうと思う。

 

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俺がこのアパートに引っ越してきた頃は、まだ入居者がほとんどいなかった。

だから静かで、すごくよかった。

でも今は、普通に騒がしい。

 

建物は5棟。

1棟あたり84世帯(1階に12世帯×7階)。

つまり合計で420世帯になる。

空室もあるけど、ほとんど埋まっている。

住んでいるのは、たぶん1000人以上だ。

 

そのおばさんは、最初からここで働いていた。

家も歩いて5分くらいのところらしい。職場としては理想的だ。

給料は最低限だと思うけど、そこは仕方ない。

 

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話を戻す。

とにかく、すごくいい人だ。

年は60くらい。俺の母親よりずっと若いけど、話していると妙に安心する。

 

俺の子どもたちのことも、本当に可愛がってくれる。

たまに、自分の畑で採れたランブータンやココナッツをくれることもある。

俺は日本に帰ったとき、必ずお土産を買ってくる。

昔は友達にも買っていたけど、今はもうこのおばさんだけだ。

 

おばさんは忙しいから、会うのはたまにだ。

でも会えば、必ず少し話す。

 

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驚くのは、ネガティブなことを一切言わないこと。

 

俺が愚痴を言っても、いつも柔らかく返してくる。

正直、「俺の話、理解できてるのかな?」って疑うことすらある。

 

でも、挨拶するといつもニコニコして、ちゃんと返してくれる。

仕事で疲れる日もあるはずだし、嫌なことだってあるだろう。

それでも、あの空気を崩さない。

 

見習いたいと思う。

そして、たまに自分が情けなくなる。

 

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俺は今まで、いろんな人に会ってきた。

その中でも、彼女はトップクラスに入る尊敬する人だ。

 

金持ちとか、頭がいいとか、そういう理由じゃない。

ただの“普通のおばさん”だ。

 

でも掃除という仕事に手を抜かない。

彼女が担当している場所は、いつもきれいだ。

たまたま俺の建物も担当なんだけど、本当にありがたいと思っている。

 

他にも掃除の人は何人かいる。

はっきり言うと、雑な人もいる。

でも、おばさんと妹がペアでやっている場所だけ、明らかに違う。そこだけピカピカだ。

 

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目立たず、普通に生きている人の中に、ものすごく深みのある人がいる。

そういう人は、案外すぐ近くにいる。

 

このおばさんは、それを突きつけてくる存在だ。

俺もまだまだ、人生経験が足りない...

 

何かを成し遂げることよりも、

何気ない日常を丁寧に積み重ねることのほうが、

実はずっと難しいのかもしれない。

 

そう気づかせてくれる人が、

すぐ近くにいる。